研究概要 |
極めて早期に死亡した頭部外傷例においては,軸索損傷を示唆する明確な所見は得られていない。そのような場合の脳障害の程度を知るため,今まで軸索とgliaの変化を併せて検討してきた。 本年度は,頭部外傷におけるmicroglia(MG)の動向について,レクチン染色を応用して検討を加えた。 法医解剖例の脳梁について,Ricinus Communis agglutinin-1(RCA1,ヒママメ・レクチン)を用いたレクチン染色によってMGを染色した標本を作製し観察した。併せて,軸索,astrocyte(AC)及びoligodendroglia(OG)の免疫組織染色標本も作製し,同時に検討した。 頭部外傷を伴わない対照例では,RCA1染色によってrestingMGと呼ばれる細胞が染色されるのみであった。一方,頭部外傷例では,受傷後数時間以上生存した例には肥大したMGが染色され,受傷後数週間以上生存した例にはいわゆるfoamy cellと呼ばれる大きな脂肪貧色細胞が検出された。しかしながら,著明な軸索変化を認めない早期死亡例においては,対照例と区別できないresting MG以外の細胞は検出されなかった。 従って,このRCA1レクチン染色によるMG変化の検討は,頭部外傷に基づく脳障害の早期変化を検出するためにはさほど有用とはいえないものの,頭部外傷を受傷してから死亡までの期間を推定するためには有用な手段であることが示唆された。 前年度まで検討した軸索,AC,OGの所見を併せて観察することによって,早期死亡例を含めた頭部外傷例の脳障害の証明と受傷から死亡までの期間の推定がかなりの精度で可能になるものと考える。
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