研究概要 |
パラコート(PQ)は酸化還元サイクルにより容易にsuperoxideを生成する。われわれは既にラットのPQ(200mg/kg)による急性致死課程の中で、とくに肝臓においてiNOSmRNAの発現レベルが促進されることを見いだしている。NOSから産生される一酸化窒素(NO)はPQの酸化還元サイクルによるsuperoxideと反応し、強力な酸化剤であるperoxynitriteができると思われる。そこで、抗nitrotyrosine抗体を使ってホルマリン固定した肝組織の免疫染色を試みた結果、血管の周囲を中心に強い特異的な陽性反応が得られ、peroxynititeの関与を示唆することができた。一方、すでにIL-1βの促進が肺臓で認められているが、TGF-βmRNAの発現レベルについても追加検討した結果、肺臓でのみ促進され、肝臓、腎臓では変化が認められなかった。このように、急性の過程においては、臓器によってPQにたいする反応は異なっており、肝臓では少なくとも一部はNO、肺臓ではcytokineによることをさらに明確にすることができた。ところで、PQの毒性は肺臓における顕著な線維化現象である。そこで、この慢性毒性について検討すべくマウス新生仔から肺のfibroblastを初代培養した.このfibroblastを用いて、PQの直接的な影響を種々in vitroで検討したが、結果的にはPQの毒性が観察されるにとどまるものであった。現在、ラットにPQを慢性的に投与し、十分毒性症状を示す肺臓のホモジネート液を調製し、fibroblastとin vitroで作用させる研究を続行中である。ところで、PQはラジカル反応によって膜脂質を過酸化することがよく知られている。そこでGC-MS,LC-MSによる脂肪酸成分の解析について、ヒトの死亡例も含めて予備的な検討を始めた。PQ中毒死したヒト肺臓においてGC-MSのTICを比較したところ、健常人と比べ長い脂肪酸(23:0,24:1,24:0など)が異常に高く検出されることが分かった。これは膜障害の結果できたリン脂質の極長鎖脂肪酸であろうと考えられる。またLC-MSからはコレステロールの過酸化代謝物である3,5-dien-7-oneなどが検出できた。さらにラットの実験では、これらの膜脂質過酸化への変化が、非常に少量のPQ曝露により、また非常に短時間の間に起こることが示唆されており、現在研究を続行中である。
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