研究概要 |
本研究では、パラコート(PQ)毒性における一酸化窒素(NO)の影響、天然の抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の役割などを調べ、PQ毒性におけるこれら物質の関与を明らかにすることができた。in vitroでのPQ毒性に対し、NOは相反する効果、すなわち毒性を強める効果と抑制する効果を示し、それはNOの濃度あるいはモデル系に依存することを明らかにした。ラットでの急性毒性では臓器によってPQにたいする反応は異なっており、肝臓では少なくとも一部はNOとくにperoxynitriteが産生されること、肺臓ではcytokineによることを明らかにした。PQ曝露されたA549細胞内のGSHレベルは増加した。また膜脂質過酸化による細胞膜障害に対してGSHレベルが防御作用をもつことを示した。WistarラットにPQを腹腔内投与し、臓器内のGSHおよびその合成関連酵素γ-glutamylcystein synthase(γ-GCS),γ-glutamyl transpeptidase(γ-GT)の酵素活性、さらにRNAを抽出しRT-PCR法で両酵素のmRNA発現レベルを調べた。その結果、PQによるGSH代謝への影響はとくに肺で顕著に観察でき、その亢進がみられた。さらに、PQ投与したラット臓器でのコレステロール過酸化物の分析を行った結果、7-hydroperoxycholesterolをパラコート曝露による腎、肝での酸化ストレスの新たな指標として報告した。一方、細胞内の情報伝達システムについて多くの事実が明らかにされ、活性酸素自身がそのシステムに関与することが分かってきた。著者らも、iNOSやInterleukin-1β,GSH reductase,catalase,superoxide dismutase mRNAなどの発現レベルを検討したが、RT-PCR differential display法によって、とくにパラコート曝露初期に変化する未知遺伝子についてさらに検討を加えた。その結果、6種類のクローンをPQによって誘導されてくる未知遺伝子として捉えることができた。それぞれは発現が経時的に上昇するもの、また一時的に発現の促進がみられるものであった。これら6種類のクローンは、3'末端部分の情報しか得られておらず、ほとんど未知の塩基配列であった。しかし、今回得られたこれらの遺伝子が、PQによる肺線維化現象に進行する初期の段階で関与する可能性が考えられ、重要なファクターである可能性が非常に高いと考えられる。
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