TAP(transporter associated with antigen processing)分子は、抗原ペプチドを粗面小胞体(ER)内に能動的に輸送する機能を持つATP駆動型のトランスポーターである。HLAクラスI拘束性の抗原処理に際し、断片化ペプチドは、TAP分子によりER内へと運ばれ、β2ミクログロブリンおよびHLAクラスI分子重鎖と会合しHLA分子に結合した状態で、細胞膜表面上に運ばれ、抗原としてT細胞に提示される。ヒトTAP遺伝子が多型を呈し、TAP1遺伝子4種類以上、TAP2遺伝子8種類以上の対立遺伝子が確認されている。TAP対立遺伝子の違いにより、抗原ペプチド輸送の選択性が異なり、抗原処理、抗原提示に影響を及ぼすと推定される。 本研究では、メラノーマ(悪性黒色腫)の患者37名より同意を得て、末梢血白血球よりゲノムDNAを抽出し、TAP対立遺伝子多型をPCR-RFLP法にて解析した。一般日本人対照52名とのTAP対立遺伝子頻度を比較したが、TAP1およびTAP2ともに有意の差は認められなかった。ATP駆動型トランスポーターであるTAP分子の遺伝子解析は、抗原ペプチドが抗原提示される抗原処理および抗原提示機構と関連し、疾患の発症機序、対応抗原の解明へと進むものと期待される。また、HLAクラスII拘束性の抗原処理に際し抗原ペプチド輸送に関わるHLA-DM遺伝子の解析も行なったが、DMAおよびDMBの両者とも対立遺伝子頻度に差は認めなかった。 今後は、一部の悪性腫瘍で報告されているHLAクラスI分子の構成要素であるβ2ミクログロブリンの変異等も含めて、MAGE、MART等のメラノーマ特異抗原の動態の検討が課題である。抗原処理-抗原提示機構による疾患発症機序解析に向けた基礎的方法論の確立も必要であると考えられる。
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