研究概要 |
平成10年度に得られた知見は以下の通りである。 消化管機能と関連の深い、各種のストレス関連神経ペプチドをラットに投与し、胃粘膜における各種熱ショック蛋白質(heat shock proteins,以下HSPs)の発現量の変化を、immunoblot,densitometryを用いて検討し、水浸拘束ストレス等の全身性のストレスを負荷した場合との差異に関しても検討した。また、HSPsの局在の変化に関しては免疫組織学的に検討した。その結果、 1. 水浸拘束ストレスを負荷した場合、胃粘膜において60-kDa heat shock protein(HSP60)および、72-kDa heat shock protein(HSP72)が誘導される。これに対し、serotonin(5-HT)を投与した際には12〜24時間後をピークにHSP60のみが、thyrotropin releasing homone(TRH)を投与した際には3時間後をピークにHSP72のみが、胃粘膜で誘導されることが明らかとなった。corticotropin releasing factor(CRF)には、HSP誘導作用は認められなかった。 2. ストレス負荷、5-HT,TRH投与によってHSPsは、胃粘膜上皮細胞を中心に誘導された。HSP72は通常の状態では、主に細胞質に発現していたが、ストレス負荷後には、核に多く移行していた。 3. 水浸拘束ストレス胃潰瘍の治癒過程で、潰瘍底部や、再生上皮にHSP60が極めて多く発現していた。 これまで、in vivoにおいて各種HSPsを胃粘膜で、特異的に誘導する方法は知られていなかったが、5-HT,TRHを単独で投与することにより、HSP60、HSP72を特異的に誘導し得ることが明らかとなった。これらの誘導法を利用することにより、今後、当初目的としていた、HSPsの機能的な差異をinvivoの実験系で検討し得るものと考えられる。
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