研究概要 |
本研究は消化管粘膜、特に胃粘膜におけるadaptive cytoprotectionのメカニズムにおける熱ショック蛋白質(heat shock protein, HSP)の分子シャペロン機能の関与を解明し、胃粘膜におけるHSPの発現量に対する中枢神経系の関与に関しても検討することにより、ストレスと消化管疾患の病態、粘膜防御機構を解明することを目的とした。 平成12年度までに明らかにしたことは以下の通りである。 1)水浸拘束ストレス負荷により胃粘膜ではHSP60,HSP72の合成が誘導され、粘膜防御能が亢進する。 2)ストレス関連中枢性神経ペプチドであるTRHの投与によりHSP72が、神経アミンである5-HTの投与ではHSP60が特異的に誘導される。 3)特異的にHSP60またはHSP72を前誘導した実験により、胃粘膜で細胞保護作用を有するのはHSP72で、胃粘膜におけるadaptive cytoprotectionのメカニズムにはHSP72が必須であることが明らかとなった。 これらの結果をもとに、平成13年度には下記のことを明らかにした。 1)胃粘膜でHSP72を前誘導すると、エタノール、塩酸、NSAID(アスピリン)による粘膜傷害が抑制し得ることを明らかにし報告した。 2)非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)の長期少量投与時における胃粘膜の耐性能獲得の機序に関してはこれまで不明であったが、我々の研究で胃粘膜のHSP72の発現誘導が重要であることが明らかとなった。 3)亜鉛製剤の経口投与により胃粘膜で効率よくHSP72が誘導できることも明らかとなり、これらの研究成果により、「分子シャペロン誘導療法」が、様々な原因によって惹起される潰瘍に対する新しい治療法として効果が期待できるものであることが明らかになった。
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