研究概要 |
[目的] 胃癌発生において細胞の不死化は重要な過程であり,テロメラーゼの活性化が必要とされる。今回,内視鏡生検組織を用いて,胃癌および前癌状態におけるhuman telomerase reversetranscriptase(hTERT)mRNAの発現を測定し,病理組織学的所見と対比させ,胃癌発生における発現段階を検討した。[対象・方法] 胃癌13例,慢性胃炎60例を対象とした。慢性胃炎症例では内視鏡検査時に得られた胃体部あるいは前庭部からの生検組織を用い,胃癌症例については手術時の切除組織,あるいは内視鏡生検組織を用いた。RT-PCR法によりhTERT mRNAの発現を測定した。さらに慢性胃炎症例では,炎症細胞浸潤,リンパろ胞,腺萎縮の程度,腸上皮化生,Helicobacter pylori(HP)の有無について,Updated Sydney Systemに基づいて病理組織学的に分類し,hTERT mRNAの発現と比較検討した。[成網] hTERT mRNAは,胃癌組織の85%に発現しており,組織型や進行度との関連性は認められなかった。慢性胃炎症例におけるhTERT mRNAの発現は14/60(23%)に認められ,特に腸上皮化生を伴った粘膜では7/15(47%)と,腸上皮化生を伴わない胃炎粘膜と比べ有意に高い発現頻度であった。慢性胃炎粘膜におけるhTERT mRNAの発現は,年齢,性別,生検部位,炎症細胞浸潤や腺萎縮の程度,リンパろ胞,HPの有無とは関連性が認められなかった。[結論] hTERT mRNAの発現は,ほとんどの胃癌組織のみならず,前癌状態と考えられている腸上皮化生粘膜においても半数近くで認められ,胃癌発生における早期段階でのhTERT mRNAの発現が示唆された。今後,慢性胃炎症例の内視鏡生検材料を用いてhTERTmRNAを測定することにより,胃癌に進展する危険の高い症例を選別できる可能性が示唆された。
|