1)ラットを用いたin vitroの系で消化管上皮組織のアポトーシスを検討した。胃上皮組織は他の消化管上皮組織に比べてアポトーシス抵抗性であり、発生過程が進み、消化管上皮の形態形成が進行した時期程、TGF-βファミリーのアポトーシス誘導作用が強い事が観察された。この過程は、HGFやEGF等の存在下で容量依存性に抑制された。 2)上皮組織に対する間質組織側からの支持か失われる事で生じるアポトーシス、anoikisについて検討した。腺管分離法を用いてアポトーシスの出現を経時的に観察する事で、anoikisは、消化管の全部域で、腺管の最深部及び表層上皮組織に発生し、短時間で腺管全体に広がって行く事、他の部域に比較して胃上皮組織ではアポトーシスの進行が遅く、anoikis抵抗性である事を見出した。anoikis過程は、ハイドロコーチゾンやNSAIDSにより著明に促進された。 3)TGF-βファミリーの増殖因子により誘導されるアポトーシスおよびanoikisの過程は、共に、tyrosine-phosphatase阻害剤であるsodium orthovanadateにより容量依存性に阻害された。現在、Focal adhesion Kinase(FAK)を中心とした蛋白のtyrosineリン酸化、および活性化されるcaspaseの分子種について検討中である。 4)胃の発癌過程におけるイニシエーターおよびプロモーターが、上記二種のアポトーシス調節機構に与える影響をMNNG、NaCl投与を行ったラットを用いて検討した。形態学的にPAPG(pepsinogen altered pyloric gland)等が出現し、発癌過程が進行中であるが確実な組織を検討したが、今回の発癌実験系ではアポトーシス調節機構の変化は認められなかった。 以上の結果より、消化管上皮組織のアポトーシスは液性増殖因子および細胞外基質の構成成分により消化管の部域および発生成長のステージに特異的に制御されていると考えられた。消化管上皮組織のapoptosisの過程を制御しているFAKをはじめとする蛋白リン酸化による調節機構の存在が示唆された。
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