ヒト肝細胞癌発生にはB型肝炎ウイルス(HBV)やC型肝炎ウイルスの持続感染が重要な役割を果たしていることは疫学・臨床研究により明らかである。しかしその分子機構は明らかではなく、本研究はその解明を目的とした。平成10年度は、ヒト肝癌細胞染色体セントロメア領域のアルファサテライトDNAが、HBVゲノムの組込みに伴い大きな再編成を起こしていること、この変異は正常(非癌部)肝細胞には認められないことの知見をもとに同DNA構築変異がヒト肝細胞癌発生に関与した可能性を考え変異アルファサテライトDNAの一次構造を詳細に解析し、少なくとも数個の反復ユニットが逆向き増幅していることの結果を得た。平成11年度は、変異アルファサテライトDNAの機能検定を実施した。変異アルファサテライトDNAの細胞形質悪性転換能を解析する目的で、ヒト肝癌細胞染色体より分子クローニングした変異アルファサテライトDNAクローン(pYSC)をヒト由来正常2倍体細胞(ヒト胎児肺2倍体細胞やヒト初代培養肝細胞)へトランスフェクションし悪性形質転換を検定したが、現在のところ転換細胞は得られず実験を継続中である。 HBV持続感染症に対する抗ウイルス療法の目的のひとつは肝細胞癌発生予防にある。慢性肝炎時にすでにHBVゲノムは肝細胞染色体に組込まれる事実に鑑み、抗ウイルス療法中にHBVゲノムの変異が起こるのか、変異HBVゲノムは肝細胞染色体に組込まれるのか、組込まれた場合、野生型HBVの組み込みと比べ肝細胞癌発生における役割機構は異なるのか、などの点を検索する目的で、抗HBV剤ラミブジン治療中のHBVゲノムを解析し、実際に変異を見出した。現在、肝生検試料において、この変異HBVゲノムの肝細胞染色体への組み込み様式を解析中である。
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