様々な疫学的研究により、近年Helicobacter pylori(以下HP)と胃癌との関連を示す報告が相次いでいる。しかしその一方で、少数ながらHP感染と無関係と思われる胃癌が存在するのも事実であり、その臨床的・分子生物学的性質を明らかにすることを目的として研究を行った。平成8年6月〜平成12年2月までの3年9ヶ月の間に当院および藤枝市立総合病院にて経験した。123例の胃癌症例を対象とした。HP感染に関しては、全例に血清HP抗体・尿素呼気試験・迅速ウレアーゼ中の70例に対しEpstein-Barr virus(EBV)関連の有無を調べるためEB encoded small RNAs in situ hybridization(EBER ISH)を施行した。また一部の症例に対してMicrosatellite instability(遺伝子不安定性)を71ociについて施行し、さらにp53の点突然変異についても検討を加えた。上記の条件を満たすHP陰性症例は6例(4.9%)のみであり、男性4例・女性2例で平均年齢70.3歳、組織学的には分化型4例・低分化型2例3病変(1例は重複癌)であった。EBER ISHは、HP陰性胃癌では全例とも染色されず、胃癌の家族暦を有する症例も皆無であった。MIの頻度および、p53の点突然変異については、HP陽性胃癌と陰性胃癌との間に有意義差は認められなかった。今回の研究では、HP陰性胃癌はEBVや家族集積とも無関係であると考えられ、分化型にやや多い傾向にあるという以外、特徴的な所見は認められなかった。また、分子生物学的に、遺伝子p53の点突然変異との関連も認められなかった。今後更に症例数を重ね検討していく必要がある。
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