研究概要 |
本研究ではヒト消化管粘膜の内視鏡的生検材料を用いることにより,ヒト小腸粘膜グルコース輸送を検討することができた. またこの系を用いて種々のグルコース吸収抑制物質と考えられる物質を検討できた.特にグルコースとマルトースの吸収に対する抑制作用の比較よりアカルボースの如く二糖類分解酵素を阻害することにより糖吸収を抑制する物質,Ginseng Radix の如くNa依存性グルコース輸送坦体(SGLUT)を抑制することにより糖吸収を抑制する物質を区別できた(文献1). 本研究で検討した物質のなかで特にGinseng Radix(朝鮮人参)は過血糖を抑制することが報告されており,臨床的にも漢方医学の分野で糖尿病の治療に用いられているが,その作用機序はインスリン合成促進作用,肝における糖輪送坦体(GLUT2)の発現促進作用によると考えられれてきた.しかし本研究で使用したユッシング法において無糖リンゲルを粘膜側およびしょう膜側チャンバーで満たした後,粘膜側に10mMのグルコース溶液またはマルトース溶液を投与すると短絡電流量の増加がみられ続いて投与したGinseng Radixにより,2分以内にIscの増加分を抑制できた.これによりGinseng RadixはNa^+-グルコース共輸送坦体(SGLT1)を直接阻害することにより食後の過血糖を軽減している可能性が示唆された.この他にグルコース吸収抑制物質を検討する過程で,Troglitazoneがヒト小腸粘膜の重炭酸イオン分泌を抑制すること(文献2)やOkadaic acidが腸管上皮細胞のParacellular pathwayを開くことにより,粘膜の水電解質の透過性を亢進させることで腸管浮腫をきたすこと(文献3)等,ヒト消化管粘膜に対する生理学的作用を広く観察することが出来た.また小腸粘膜にとどまらず内視鏡的生検で認めたヒト胃粘膜の生検材料でも同様に電気生理学的な検討が可能であること(文献4)など,興味ある結果が得られた.
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