研究概要 |
胃の炎症が胃酸分泌、ガストリン・ソマトスタチンなどの消化管ホルモンの胃粘膜内での合成・分泌に与える影響、さらには胃内pHによる胃酸、消化管ホルモン分泌調節機構と炎症による影響を一酸化窒素(NO)の面から検討し、胃疾患との関連を明らかにすることを目的とする。 Lipopolysaccharide(LPS)により酸分泌が抑制されるが、これにはNOを産生させ、NOがソマソスタチン産生を介して酸分泌を抑制している系とプロスタグランジンを介する系が想定される。LPSによるsomatostatin,iNOS,HK-ATPase mRNA発現はL-NAMEにより抑制されるが、インドメタシンでは抑制されないことから、NOを介する系が炎症で胃酸分泌を重要であることが推測され、炎症の存在がNOを介して胃酸分泌を抑制的していることが推測された。 臨床的には、血清NOX(NO代謝産物)とgastrin,pepsinogen I,II(PGI,PGII)を測定したところH.pylori感染者では血清NOXが有意に高値であり、胃の炎症が血液中の物質に反映されていることが明らかになった。H.pylori感染により血清PGI,PGIIが上昇するが、血清NOXはPGI,PGIIより早期から上昇すると考えられ早期診断への有用性が考えられた。またH.pylori陰性者では血清NOXとPGIIが有意な相関を示し、PGIとも相関がみられた。PGIは胃の主細胞数と相関すると考えられていることから、血清NOXはH.pylori陰性者では胃酸分泌能の影響を受けていると考えられた。 胃液中のNO代謝産物であるnitriteは従来から胃酸の影響を受け、低酸ないし無酸で水素イオン濃度が低いと増加し、胃液中ニトロサミン産生の増加を介して胃癌の原因になると報告されてきた。胃癌と萎縮性胃炎で検討したところいずれも胃酸pHは同じであるにもかかわらず胃癌の方がnitrite濃度も高く、胃癌では単なる胃液pH高値のみでなく胃粘膜でのNO産生の増加が推測された。NOおよびその代謝産物と胃酸は相互に影響し合って胃癌の発生に影響をあたえていることが推測された。
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