研究概要 |
H.pylori胃炎では胃分泌の変化がみられ、炎症が胃分泌能に影響を及ぼすと推測される。炎症細胞は一酸化窒素(NO)を放出するので、NOの酸分泌調整に対する役割を検討した。NOの代謝産物であるnitriteとnitrate(NOX)の測定が胃の炎症や分泌の指標となるか、また胃癌を中心として胃液中でニトロサミンの原斜となるnitriteと胃の分泌能の関係を検討した。 1.カプサイシン感受性神経による胃内pHの感知と胃分泌機構のpHによる調節について 胃内pH変化によるガストリン分泌の促進と抑制はカプサイシン感受性神経をブロックすることにより阻害された。胃内pH変化をこの神経が感知してG細胞に刺激を伝達し酸分泌を調節していることが明らかになった。胃内pH変化で血中NOXの上昇がみられ、G細胞に至る経路にNOの関与が推測されたが、この詳細を明らかにするにはさらに研究が必要である。 2.一酸化窒素の胃分泌への関与について lipopolysaccharide(LPS)を作用させると胃粘膜内でNOを産生する。血中NOXが増加しない低用量(100μg/kg)のLPSを投与することにより胃酸分泌の抑制がみられた。この時胃粘膜iNOS活性とiNOSmRNAの増強、ガストリンmRNA抑制とソマトスタチンmRNAの増強、H+K+ATPase mRNAの抑制が見られたがこれらの変化はL-NAMEにより阻害された。LPSにより産生されたNOがソマトスタチン分泌促進を介して酸分泌を抑制していると推測された。 3)血清NOXとペプシノゲン H.pylori感染者では血清NOXが高値で、胃の炎症が血液に反映されていることが明らかになった。H.pylori感染によりPGI,PGIIが増加するが、血清NOXのほうがより早期から上昇すると考えられた。またH.pylori陰性者では血清NOXとPGI、PGIIと相関がみられ、胃酸分泌能の影響を受けていると考えられた。 4)胃液中nitriteと酸分泌能 胃液中のnitrite濃度はpHと相関し、低酸ないし無酸では増加すると報告されてきた。H.pylori陽性の胃癌と萎縮性胃炎で比較したところ胃液pHは同じであるにもかかわらず胃癌の方がnitrite濃度が高く、胃癌では単に胃液pHが高値であるためのみでなく胃粘膜でのNO産生の増加など胃粘膜側の要因の関与が推測ざれた。
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