研究概要 |
大腸炎の実験モデル(高分子硫酸デキストラン投与により作成、DSS)において、大腸粘膜に発生した炎症が大腸癌発生の重要な背景因子の一つと考え、大腸粘膜炎症の発生に前炎症性サイトカインと共に神経原性炎症性ペプチドSubstance P(SP)が重要な働きをしていることを前回の科学研究助成金の研究で明らかにしたので、今回はSPの拮抗剤が炎症の発生と隆起性病変を抑制するか否かを検討した。H10年度はDSS投与前に吸収を遅延させるためにDepotの形でSP拮抗剤(5mg/kg)を筋肉内に投与(1週間)し、その後DSSを2-12週投与して実験モデルを作成した。SP拮抗剤の効果判定にDSS投与2,4,8,12週目にラットを屠殺した。 (成績)初年度は大腸の肉眼的な観察のみを行い、採取した大腸粘膜試料は次年度の分子生物学的な検索(サイトカインの粘膜量及びそれらのmRNA,SPmRNA)のために-70度で保存している。肉眼的所見は1.2週:対照のDSS単独群で大腸全域の強出血、粘膜にびらんあり、SP群で大腸出血は6頭中1頭に軽度出血あり、粘膜にびらんはない。2.4週:DSS群全例に強出血、一部のラットにびらんと潰瘍、6頭中2頭めラットに隆起性病変あり、SP群全例に軽度〜中等度の出血あるも、潰瘍、隆起性病変を認めない。3.8週:DSS群全例に強出血、6頭中5頭に隆起性病変あり、粘膜全域にびらん多発、SP群全例に軽度出血、隆起性病変は6頭中1頭に認めた。4.12週:DSS群全例に中〜強度の出血、全例隆起性病変(5頭,1頭死亡)、SP群軽度出血、隆起性病変は6頭中1頭に認めた。DSS投与8、12週(成績3,4)においては粘膜出血はあるが、明らかな潰瘍性病変は認めなかった。これらの成績は肉眼的所見であるものの、SP拮抗剤が大腸粘膜出血、隆起性(炎症性?)病変の発生を抑制することが示唆された。
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