本研究では、生体のストレス応答のシグナル伝達経路を修飾するため、研究計画に沿って両側副腎摘出、あるいは横隔膜下での迷走神経切離術を施行したモデルラットを作成した。これらのラットに水浸拘束ストレスを負荷し、視床下部及び胃粘膜における熱ショックタンパク質70(HSP70)誘導とHSP70mRNAの発現を調べた。さらに、これらのラット胃粘膜での熱ショック転写因子1の発現量とその活性化についても検討した結果、急性ストレス時の胃粘膜におけるHSP70の発現誘導は、副腎由来の因子により生じることをつきとめた。これを証明するため、副腎摘出ラットに、エピネフリン、ノルエピネフリン、あるいはデキサメサゾンを投与すると、エピネフリンでのみHSP70mRNAと蛋白質が誘導させることを示した。さらに、エピネフリンによるHSP70の誘導をさらに詳細に確認するため、正常ラットに、α_1、α_<1A>、α_<1B/1D>、α_2、βアドレナリン拮抗剤あるいはグルココルチコイド拮抗剤を投与し、水浸拘束ストレスによる胃粘膜のHSP70の誘導阻害を調べた結果、α_1とα_<1A>アドレナリン拮抗剤でその誘導が完全に阻害され、その他の拮抗剤では効果がないことを確認した。これらの結果から、急性ストレス時に胃粘膜にHSP70を誘導するメカニズムとして、交感神経・副腎髄質系の活性化により放出されるエピネフリンがα_<1A>レセプターを介して胃粘膜にHSP70を誘導し、ストレス潰瘍に対する低抗力を誘導することを明らかに出来た。さらに、ストレスにより胃粘膜にRNAスプライシングファクター(RA301)のスプライシングバリアントが発現することを発見した。今後、このバリアントの生理作用の解明し、あらたなストレス研究へと進展させたい。
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