研究概要 |
異粘膜表面のリン脂質は粘膜表面の疎水性を保ち,粘膜保護バリアーとして機能しており,胃炎や胃潰瘍の発生には,このリン脂質疎水層の変化が関与している可能性が提唱されている.一方,ヘリコバクターピロリは胃炎や消化性潰瘍を惹起することやその再発に深く関与していることが明らかになっている.そこで,ヘリコバクターピロリ感染に伴う胃粘膜傷害にリン脂質量や組成の変化がいかに関与しているかを検討するため本実験を計画した. 本年度は,胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍患者を対象とし,胃内視鏡下生検組織を用い,リン脂質の定量・ヘリコバクターピロリの存在診断を行った.内視鏡施行症例の胃生検材料を用いた検討では,胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者においてはヘリコバクターピロリの感染の有無に関わらず胃粘膜のリン脂質量に低下があることが明らかとなった.胃生検材料でのリン脂質の組成に関する検討は現在進行中である.また来年度は胃粘膜細胞アポトーシスとリン脂質との相関についても検討を進める予定である. ヘリコバクターの感染実験については,今年度ヘリコバクターピロリ標準株(ATCC43504株)を,スナネズミに経口摂取し,摂取後3ヶ月での胃粘膜粘液中でヘリコバクターの検出並びに血中抗体価上昇でスナネズミの感染を確認した.超低温フリーザーに感染したスナネズミの消化管が保存されており来年度はこれらの材料を用いてリン脂質の組成やアポトーシスとの関連について解析を進める予定である.またヘリコバクター摂取後現在も飼育中のスナネズミで発癌との関連がさらに詳細に検討できるのではないかと思われる.
|