研究概要 |
胃粘膜細胞の主要リン脂質であるphosphatidylcholine(PC)は粘液層にバリア疎水性層を形成し粘膜防御に重要な役割を演じている.胃炎や胃潰瘍の発生には,このリン脂質疎水層の変化が関与している可能性が示唆されている.一方,ヘリコバクターピロリ(HP)は胃炎や消化性潰瘍を惹起することやその再発に深く関与していることが明らかになっている.我々は,すでにHPの有無に関わらず潰瘍例では胃粘膜PC量か減少することを報告している.そこで,ヘリコバクターピロリ感染に伴う胃粘膜障害にリン脂質量や組成の変化がいかに関与しているかを検討するため本実験を計画した.今年度はHP陽性潰瘍に対して除菌を行い,除菌前後の胃粘膜PC量の変化について検討した.HP陽性潰瘍症例と陰性潰瘍症例に内視鏡検査を行い前庭部及び体上部より生検した.除菌の同意後,除菌を行い,治療終了4週後に同部位より再度生検を行い,IATROSCAN TH-10を用いリン脂質を測定した.(結果)94%のHP陽性例で除菌に成功した.成功した全例で除菌前後のPC量を比較したところ,除菌前6.2μg/mgから除菌後9.6μg/mgと増加が認められた.HP陰性例のPC量は5.6μg/mgであった.上記データから解かるようにHP感染潰瘍の除菌によって胃粘膜中のリン脂質濃度(特にPC)は上昇することか判明した.これは胃粘膜防御能の低下が除菌によって軽減される可能性を示す結果である.現在胃粘膜細胞アポトーシスとリン脂質との相関についても検討を進ている.へリコバクターの感染実験については,今年度ヘリコバクターピロリ標準株(ATCC43504株)を,スナネズミに経口摂取し,感染の成立したスナネズミとコントロール群の胃粘膜中PC量の比較検討している.現在のところ人でのデータと同様の傾向が得られている.
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