研究概要 |
1、研究の目的 膵癌は、これまで試みられてきた様々な集学的治療に対して全く無効で、最も予後不良な疾患の一つであり、その治療には新しいモダリテイが必要であると考えられる。膵癌の分子生物学的特徴として、Rasの活性化に基づく細胞増殖の亢進が90%以上に見られることから、そのシグナル伝達経路の阻害を標的とした方法が有力な抗がん治療となり得る。そこで本研究ではイソプレノイドを化学合成した誘導体であるゲラニルゲラニオール(GGO)およびファルネソール(FO)を用いて標的タンパクのファルネシル基を修飾し、その蛋白の機能を阻害することにより細胞増殖を抑制する新しい治療法の開発を目的とする。 2、研究成績 (1)複数のヒト膵癌由来細胞株(Panc-1、MIAPaKa-2、AsPC-I,BxPC-3,1B2C6)の細胞増殖に及ぼすGGOおよびFOの効果をMTT法で検討した。薬剤未処理をコントロールとするIC50はGGOが20-50μMでFOは25-75μMであった。また3例の膵癌患者腹水より分離した新鮮癌細胞に対するIC50はGGOが20-70μMでFOは25-60μMであった。 2)GGOおよびFOによる細胞増殖抑制の機序はアポトーシスの誘導作用であることをDNAのfragmentationおよびTUNEL法で確認した。 (3)GGOおよびFOによる細胞増殖抑制、アポトーシス誘導はcaspase阻害剤により回避されないことよりcaspase(ICE、CPP32)を介さない経路であると考えられた。 (4)GGO、FOにより修飾されるRas,Rho,Racなど低分子量G蛋白,三量体G蛋白のγサブユニットなどを修飾していることからGTP結合蛋白の生合成や機能を障害することによりアポトーシスを誘導する可能性を検討中である。
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