研究概要 |
H.pyloriと胃癌の関係については、H.pylori感染スナネズミで発癌物質を与えることにより、感染させていないスナネズミより著明に発癌率が高いことがわかってきた。そこで、本年度は、chemopreventionの観点から、大腸癌で注目されているCOX-2 inhibitorを用いて、ヒトおよび実験動物で検討を行った。まずヒトにおいては、COX-2 inhibitorを長期に内服することにより、H.pylori感染により惹起された好中球の浸潤が抑制され、DNA傷害に関与していると考えられているiNOSの胃粘膜内での局在が減少した。また、H.pylori感染により増強していた胃粘膜上皮細胞のアポトーシスを抑制した。このことから、COX-2 inhibitorはH.pyloriにより惹起された胃粘膜炎症を抑制していることが示唆された。つぎに、H.pylori感染マウスを用いて、COX-2 inhibitorを1週間投与し、同様の検討を行った。H.pylori感染により、胃粘膜プロスタグランジン量は増加し、この増加は、COX-1およびCOX-2両酵素由来のPGである可能性が示唆された。COX-2 inhibitorの1週間投与により,胃粘膜内の好中球は増加し、炎症はひどくなった。これらのことより、H.pylori感染マウスにおいては、COX-2 inhibitorは胃の炎症を増悪させる可能性が考えられた。これら結果の解離は、ヒトにおいては、マウスよりH.pylori感染による萎縮性胃炎がさらに進行している可能性が高く、胃酸の影響が考えられる。もう一つは、COX-2 inhibitorの投与期間と投与量の問題で、マウスにおいて、もっと長期にしかも少量を投与すれば、ヒトに近い成績になった可能性が考えられる。COX-2 inhibitorのchemoprevention作用は重要な課題で、さらなる検討が必要であると考えられた。
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