研究概要 |
本年度の研究計画に基づいて、インターフェロンα(IFN-α)のヒト肝癌細胞に対する作用をin vitroにて検討した。 1) IFN-αの細胞増殖抑制機構の解明 IFN-αはHCC-T,HCC-M,HepG2細胞の増殖を用量依存性に抑制した。これに対しPLC/PF/5の増殖は抑制しにくく、IFN-α 10,000 IU/mLという高濃度においてはじめて増殖が抑制された。HCC-T,HCC-M,HepG2細胞ではIFN-αの添加により、細胞周期上G0/G1期の細胞が増加した。この際、cyclin-dependentkinase inhibitorであるp21/WAF-1の発現が増加していたが、PLC/PRF/5では高濃度のIFN-αが必要であった。p21/WAF-1の発現はp53の発現とは相関せず、IFN-αの細胞周期の調節にはp53に非依存的に増加するp21/WAF-1の作用によるものと考えられた。以上の成績はTada S,et al.Int.J.Oncol.1998;13:1207-1216に発表した。 2) IRF-1遺伝子の関与に関する検討 IFN-α添加により増殖抑制効果の容易に得られる高感受性細胞群HCC-T,HCC-M,HepG2となかなか抑制されない低感受性細胞PLC/PRF/5を比較したところ、interferon regulatory factor-1(IRF-1)DNAの再構成がPLC/PRF/5だけに認められた。低感受性細胞PLC/PRF/5ではIRF-1mRNAの発現が高感受性細胞に比較して1/10量に低下していた。また、IFN-αを添加後の発現量は1/5量に低下していた。すなわちDNA再構成のみらねる細胞ではIRF-1mRNA発現量が低下しているという相関が認められた。以上の成績はTadaetal.Int.J.Oncol.1998;13:1207-1216に発表した。 3) E-cadherin,catenin発現に対する影響 IFN-α添加により、E-cadherin蛋白の発現が細胞膜に増加した。同様にcatenin分子の中のβ-cateninが膜に発現した。核内にβ-cateninの発現が増加しないことから、Wntシグナル伝達系の活性化が生じているわけではないことが判明した。また、検討したヒト肝癌細胞にはβ-catenin遺伝子のエクソン3にあるhot spotに変異は認められなかった。すなわちIFN-αはこれら接着分子の発現を上昇し、肝癌細胞の同種細胞からの遊離を抑制することから、転移を抑制する可能性のある薬物と考えられた。これらの成績は現在投稿中である。 以上のヒト肝癌細胞に対するIFN-αの作用は、これまで検討してきたsodium butyrateの作用と同様であった(Saito H,et al.Hepatology 1998;27;1233-1240)。
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