消化管損傷修復機構における上皮一間葉相関の細胞、分子生物学的制御

1998 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 10670503
• 研究機関: 順天堂大学
• 研究代表者: 渡辺 純夫 順天堂大学, 医学部, 助教授 (20138225)
• 研究分担者: 宮崎 招久 順天堂大学, 医学部, 講師 (20200149)
• キーワード: 胃粘膜損傷 / 消化性潰瘍 / 細胞培養 / 線維芽細胞 / 血管内皮細胞 / 増殖因子 / インスリン様増殖因子 / 細胞外基質

研究概要

今年度は、従来解析の遅れていた間葉系の細胞に注目し、線維芽細胞、内皮細胞の果たす役割を微量元素である亜鉛の働きと共に解析した。線維芽細胞は、家兎胃粘膜より初代培養し完全な単層培養シート化し、既報のごとく人工的損傷を作成し修復過程を微速度撮影し解析した。内皮細胞は、ヒト臍帯静脈内皮細胞を用い、同様に実験に供した。損傷作成後、培養液中に亜鉛及び亜鉛製剤を添加することにより線維芽細胞の損傷修復は促進された。この促進効果は、細胞遊走と細胞増殖の両者を促進していた。同様に臍帯静脈内皮細胞を用いた解析でも損傷の修復は有意に促進された。しかし、亜鉛は上皮細胞の損傷修復には促進効果を示さなかった。線維芽細胞のcondition mediumを上皮細胞の損傷修復解析系に添加すると、亜鉛単独では効果を示さなかったものが、有意に促進されるようになった。このことから、condition medium中には上皮細胞系の修復を促進させる因子が存在するものと考え、間葉系細胞における増殖因子の遺伝子発現を検討した。線維芽細胞、血管内皮細胞の培養系に各種濃度の亜鉛または亜鉛製剤を添加後、経時的に増殖因子の遺伝子発現を解析した。その結果、インスリン様増殖因子1(IGF-1)の遺伝子発現が有意に上昇していることが明らかとなり、線維芽細胞のcondition medium中にはIGF-1が含有する事が想定された。実際、IGF-1抗体をcondition mediumに添加すると上皮細胞に対する修復促進効果が消失し、さらに、IGF-1を上皮細胞の損傷修復系に添加すると有意に上皮細胞の遊走と増殖の亢進を惹起し損傷修復を促進した。これらの結果から、胃粘膜損傷の修復の場においては、IGF-1が亜鉛などの刺激により間葉系細胞から分泌され、オートクライン機構により間葉系自身の遊走、増殖を促進し、さらに、近傍の上皮細胞にパラクリン機構により刺激を与え損傷修復を促進するものと結論付けることができた。

研究成果

• [文献書誌] Sato N,et al.: "The novel histamine H2 receptor antagonist,FRG-8813,prevents delay of wound repair induced by hydogen peroxide in a rabbit gastric epithelial cell system." Journal of Gastroenterology and Hepatology. 13(Supple). 209-213 (1998)
• [文献書誌] Watanabe S,et al.: "Insulin-like growth factor I plays a role in gastric wound healing: evidence using a zinc derivative,polaprezinc,and an in vitro rabbit wound repair model." Alimentary Pharmacology and Therapeutics. 12. 1131-1138 (1998)
• [文献書誌] Watanabe S,et al.: "Rebamipide prevented delay of wound repair induced by hydrogen peroxide and suppressed apoptosis of gastric epithelial cells in vitro." Digestive Diseases and Sciences. 43(9). 107S-112S (1998)
• [文献書誌] Watanabe S,et al.: "Effects of teprenone on gastric epithelial restoration in a rabbit cultured cell model." Journal of Gastroenterology. 33. 153-159 (1998)
• [文献書誌] Watanabe S,et al.: "A neurotorophic pyrimidine compound,MS-818,enhances EGF-induced restoration of gastric epithelial wounds in vitro." Journal of Clinical Gastroenterology. 27(Suppl.1). S105-S109 (1998)
• [文献書誌] Oide H,et al.: "The effect of interferon γ on hepatic haemodynamics." Journal of Gastroenterology and Hepatology. 13(10). 975-976 (1998)