研究概要 |
種々の消化器疾患において、好中球が腸管上皮細胞と接着して傷害作用をおよぼすことが知られているが、この接着に関わる分子についてはほとんど調べられていない。我々は、これまでに、ヒト腸管上皮細胞株であるHT29をTNF-αやヒスタミンで刺激すると、ヒト好中球との接着が上昇し、その時の好中球側の接着分子がMac-1であることを見出した。一方、腸管上皮細胞側のMac-1に対するリガンドは、血管内皮細胞でよく知られているICAM-1ではなく、別の分子であることが推測された。そこで、この接着に関与する腸管上皮細胞の接着分子について調べた。 1, HT29のICAM-1細胞表面発現量を調べたところ、TNF-αやヒスタミンで刺激しても発現量は変わらなかった。 2, HT29に存在する接着分子の性質を調べるために、二価カチオン、阻害剤および酵素の影響等を調べた。 (1) HT29と好中球との接着はMg^<2+>依存性でありCa^<2+>非依存性であった。 (2) この接着分子がタンパク分子かどうかを調べるためHT29をプロテイナーゼKで前処理したところ、接着が阻害されたことから、タンパク質性分子であると思われた。しかし、シクロヘキシミドでは影響されなかったことから、TNF-α、ヒスタミン刺激後、接着分子が生合成されるのではなく、細胞内貯蔵部位から細胞表面に発現されるか、構造変化によってMAC-1と結合するようになったかが考えられた。 (3) さらに、これら接着に糖鎖が関与しているかどうかを調べるため糖鎖切断酵素(エンドグリコシダーゼ、シアリダーゼ、ツニカマイシン)でHT29を前処理した。その結果、いずれの酵素によっても接着は阻害されなかったので、この接着に糖鎖は関与しないと考えられた。 今後、さらに分子レベルの解析を行い、腸管上皮細胞側の接着分子の解析を行う。
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