研究概要 |
種々の消化器疾患において、好中球が腸管上皮細胞と接着して傷害作用をおよぼすことが知られている。我々は、刺激されたヒト腸管上皮細胞株HT29と、ヒト好中球との接着に関与する好中球側の接着分子がMac-1であり、一方、腸管上皮細胞側のMac-1に対するリガンドは、血管内皮細胞でよく知られているICAM-1でないことを明らかにしている。 平成10年年度の本研究では、HT29細胞に発現しているこの未知の接着分子について調べたところ、1)刺激に応じて細胞内貯蔵部位から細胞表面に発現されるか、または、構造変化を起こしてMac-1と結合するようになるタンパク質性の分子であること、2)種々の糖鎖切断酵素で処理しても接着は阻害されないことから、この接着に糖鎖は関与しないとことが推測された。 平成11年度ではさらに以下の事を明らかにした。 1.従来報告されている、接着機構と比較するため、phosphatidylinositol-specific phospholipase C、RGDペプチド、ヘパリナーゼの影響を調べたところ、いずれも影響しなかった。したがって、HT29の接着分子はGPIアンカー型接着分子ではなく、また、RGD配列をもった細胞外マトリックスタンパクや、ヘパリン様グルコサアミノグリカンとの接着ではないと考えられた。 2.さらに、HT29細胞の表面をI125でラベルした後、TNF-αやヒスタミンで刺激し、cell lysateをSDS-PAGEで解析したところ、分子量の31,250,145,85,65kDaの膜表面タンパク質の発現が刺激に応じて増加することがわかった。従って、これらの分子量の膜タンパク質の1つまたは複数が好中球とHT29との接着に関与する可能性が示唆された。 今後、さらに分子レベルの解析を行い、腸管上皮細胞側の接着分子の解析を行いたい。
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