大腸癌原発巣と大腸癌肝転移巣より抽出したcDNAをもとにしたRDA法(PCR法に基ずくRNAのサブトラクション法)の結果、大腸癌原発巣に比し、大腸癌肝転移巣で発現増強を示す遺伝子として8種類の遺伝子が同定された。内4種類は既知の遺伝子であった(1.Reg1-α 2.Annexin-1 3.GW112 4.Sm-like protein)。 2種類は遺伝子バンクに未登録の遺伝子であり、2種類は遺伝子バンクに登録されている(Cosmid L219のクローン遺伝子、およびBACクローン内16p13染色体上遺伝子)が機能が明らかにされていない遺伝子であった。 この内、Reg1-αは、もともと膵臓のラ氏島の再生時に発現増強を示す遺伝子として同定され、最近、ガストリン刺激により胃の内分泌系の細胞からも分泌され胃粘膜上皮細胞の増殖にも関与する事が明らかにされている。また、Annexin-1は、自己反応性T細胞の抑制に関与するとされている。これらの遺伝子の大腸癌転移巣における発現増強が、大腸癌の増殖能の増強や自己の免疫監視網からのエスケープに関与し、大腸癌の発育、転移のメカニズムの一つである可能性がある。 そこで、既存の遺伝子の中では、Reg1-αとAnnexin-1およびGW112に着目して研究をすすめた。これらの遺伝子発現をreal-time PCR法により検討したところ、これらの遺伝子発現は必ずしも大腸癌肝転移巣に特異的ではなく、大腸粘膜の炎症と密接に関係している事が判った。特にReg1-αは炎症部において大腸上皮細胞間の接着が粗になる事で陰窩上皮に誘導され、炎症部大腸粘膜の損傷治癒に重要な分子である事が判明した。GW112も炎症部において大腸陰窩上皮に誘導され、炎症部大腸粘膜の損傷治癒に関与する可能性が示唆された。
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