大酒家では、咽喉頭癌や食道癌をはじめ消化器系の悪性腫瘍が高頻度に発生することは、疫学的分析からもよく知られてきている。しかし、特に消化管系の癌がなぜ大酒家に多いのか機序については十分に解明されているとはいえない。Procarcinogenの1つであるnirtosoamineは、空気および水を含めたほぼすべての食物に含まれ、しかも腸内でも産生される。したがって、nitrosoamineは日常ヒトが最も暴露され易いprocarcinogenであるが、この程度の低濃度のnitrosoamineをcarcinogenに代謝する酵素はcytochrome P4502E1(CYP2E1)のただ1つであることが明らかにされている。一方、CYP2E1は飲酒により強く誘導されるが、このアルコールによる誘導は、肝だけではなく食道をはじめ胃および小腸、大腸でも起こることが観察されている。このように、アルコールによるCYP2E1の誘導が消化器系の発癌に関与している可能性が示唆され、われわれは、nitrosoamineの1種であるNitrosodimethylamineとアルコールの長期投与によりラット肝に前癌結節を発生させることに成功している。そこで今回、消化管系の発癌に対するアルコールの役割を明確にするために、nitrosoamineのうちN-nitrosomethylbenzylamineによる食道の化学発癌について長期アルコール飼育ラットを用いて検討を行うことを企図し、Wistar系雄性ラットを総カロリーの36%のアルコール(アルコール群)、あるいはその等カロリーを炭水化物で置換した液体飼料(コントロール群)で微量のN-nitrosomethylbenzylamineを投与した。現在は問題なく飼育されているが、成果が得られるのは平成12年3月である。
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