【目的】大酒家では食道癌が高頻度に発生することは疫学的分析からもよく知られてきているが、その発生機序の詳細については十分に解明されていない。ニトロソアミンは日常ヒトが最も暴露され易いprocarcinogenであるが、このうち食道発癌に関与するN-nitrosomethylbenzylamine(NMBA)はcytochrome P4502E1(CYP2E1)によって代謝され、 carcinogenになることが明らかにされている。一方、 CYP2E1は飲酒により強く誘導されるが、このアルコール(AL)による誘導は、肝だけではなく食道粘膜にも起こることをわれわれは報告してきている。そこで今回、 NMBAによる化学発癌モデルを用い、食道癌の発生に及ぼすALの影響について検討を行なった。 【方法】Wistar系雄性ラットをAL(AL群、n=10)あるいは等カロリーの炭水化物(C群、n=10)含有の液体飼料でpair-feedingを2週間行った後、0.1mg/kg body weight/dayのNMBAを週2回、10週間、腹腔内に投与した。CYP2E1によるNMBAとALの代謝が競合しないように、NMBAは午前10時に投与し、液体飼料は午後3時から翌日の午前9時まで与えた。飼育開始後30週目に屠殺し、食道の結節性病変の有無を肉眼的および実体顕微鏡的に観察するとともに、病理組織学的にも検討を行った。また、食道粘膜を抗CYP2E1抗体を用いて免疫組織化学的に染色し、CYP2E1の誘導の状況を観察した。 【成績】食道における肉眼的にも明らかな腫瘍性病変は、AL群では全例で5〜8個認められたが、C群では5例(50%)でのみ、かつ1個を認めたにすぎなかった。実体顕微鏡的には、径2〜4mmの腫瘍性病変がAL群ではほぼ食道全域にわたって観察されたが、C群では食道下部から中部にかけて散在性にのみ認められた。病理組織学的には、papillomaであったが、径が3mm以上のものでは軽度の異型性が認められた。食道粘膜のCYP2E1は、AL群で強く染色されたが、C群での染色性はきわめて弱かった。 【結語】以上のことから、慢性飲酒はCYP2E1の誘導を介して、食道癌の発生にpromoterとして作用することが示唆された。
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