C型肝炎ウイルス(HCV)は20-30年におよぶ慢性肝炎(持続感染)の後、肝細胞癌を発生させるとされるが、細胞形質転換の機構は依然として明らかではない。われわれはこれまでに遺伝子導入による手法でHCVの非構造蛋白NS3のアミノ末端側領域(NS3-N)に細胞形質転換、腫瘍原性の活性が存在することを示し、また、この腫瘍原性は腫瘍抑制遺伝子p53の共導入によって失われることを示してきた。これまでの諸事実からHCVによる細胞癌化においてp53を含む複数の宿主蛋白の作用が関わることが推察される。ここではそれら未知のHCV-NS3反応(結合)宿主蛋白を酵母を用いた2-hybrid assay法によって検索した。その結果、ヒトcDNAライブラリーから、NS3と反応する蛋白として陽性クローン16種が得られたが、その中でSmD(small nuclear RNP)、DNA helicaseモチーフを有する蛋白などの細胞核蛋白及び未同定の蛋白を検出することができた。SmDについては大腸菌で発現させ、NS3-Nとの結合性をin vitroで調べたところ、実際に結合が起こっていることを証明することができた。HCVは細胞質で増えるRNAウイルスであるが、その複製時にはウイルス蛋白の一部が核に移行しうると考えられるので、ここで示された、NS3結合核蛋白がHCVによる細胞形質転換の機構の中で、役割を果たしていることが推察される。p53との関連性を含め、今後SmD発現ベクターを作成し、遺伝子導入法等を用い、蛋白の機能解析をすすめる。
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