研究概要 |
わが国の肝細胞癌はC型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染との関連が大きい.しかしながら,本ウイルス感染の肝細胞癌化機構はまったく明らかではない.われわれは,HCVがフラビウイルスと同一構造を示すことに着目し,フラビウイルスの持つウイルス複製機構に基づいてHCV-NS3領域の機能を追求したところ,HCV-NS3タンパクがマウス細胞NIH3T3に対して形質転換能と腫瘍形成能とを発現することを発見した.したがって,ウイルス感染細胞に対して,HCV-NS3が細胞癌化機能を発現する可能性が示唆されるところであるが,宿主細胞因子との関連は不明である.平成12年度は,この点を追求して以下の成果を得た.まず,酵母の2-ハイブリッドアッセイ法を用いてNS3のN末端領域と相互作用を示す宿主タンパクのスクリーニングを行ったところ,His培地での発育およびLacZ活性の有無によって288個の陽性クローンを採取した.このうち,βガラクトシダーゼ活性陽性クローンは15であり,このうちHCV-NS3と結合したのは8クローンであった.これらクローンの遺伝子解析を行う目的で,NSP-7クローンを大腸菌内でグルタチオントランスフェラーゼ融合タンパクとして発現させ,マルトース融合タンパクとともにカラム抽出によって部分精製を行ったところ,small nuclear RNP(SmD)のmRNAの全領域が挿入されていることが判明した.このNSP-7のHCV-NS3との結合域を明らかにする目的で,欠失タンパクを構築して発現の有無を検索した.その結果,NSP-7のC末端領域を欠失させるとβガラクトシダーゼ活性が著明に低下することが判明した.以上の成績から,HCV-NS3と結合する宿主タンパクは,その一部は核内に存在するタンパクであることが強く示唆され,HCV持続感染による細胞の形質転換および細胞癌化機構との関連が大いに考察されるところといえる.
|