実験1:ATPの最終代謝産物である尿酸の尿中排泄量は組織低酸素の指標となる可能性が報告されているが、その直接的証拠はない。そこで、睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者18人を対象に睡眠前後の尿中尿酸排泄量の変化率(ΔUA/Cr)と睡眠中の血中アデノシン濃度を測定し、ΔUA/Crが真に組織のATP異化を反映しているか否かを検討した。ΔUA/Cr増加群は正常群と比較して年齢・BMI・血清尿酸・低酸素血症の程度は差がなく、無呼吸指数も悪くなかったが、血中アデノシン濃度は有意に高かった。n-CPAP治療によって無呼吸が著明に改善した12人のうち、ΔUA/Cr正常群5人ではΔUA/Cr・アデノシンの両指標とも治療後に変化はなかったが、増加群7名では治療により両指標とも有意に低下し、両群の有意差は消失した。以上よりΔUA/Crは動脈血低酸素の程度からは推定できない組織低酸素を反映する指標であり、SAS思者の重症度を判定する新しい指標となるかもしれない。 実験2:ΔUA/Crの組織低酸素の指標としての有用性と限界をさらに明らかにするため、夜間睡眠時低酸素血症のない対照で同指標を測定した。SAS思者では、この指標の陽性群と正常群との差異が循環系応答の個体差による可能性を検討するため無呼吸に伴う心拍数応答を解析した。SAS患者では33人中13人(39%)でΔUA/Crが陽性あったのに対し、対照では28人中4人(14%)で疑陽性であった。SAS思者で心拍数変動を評価すると、睡眠呼吸障害諸指標では2群間で有意差がないのに、睡眠前安静時心拍数と無呼吸終了後最大心拍数との差(ΔHR)はΔUA/Cr陽性群で有意に小さかった。以上よりΔUA/Crは疑陽性がありうること、SAS患者の組織低酸素決定要因として心拍数応答の個体差が関与している可能性が示唆された。
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