肺胞や肺間質に炎症が生じ、白血球が、肺循環の微小血管に集積すると、活性化され血管内皮に接着した後、内皮をくぐり抜けて間質、肺胞へ遊走する。気管支壁に炎症が生じると、白血球は、毛細管近傍の小静脈で捕捉され、ローリングした後、接着、血管外遊走を行い炎症部に到達する。これらの一連のプロセスは、呼吸器感染症から宿主を守る働きをする一方で、成人呼吸促迫症候群(ARDS)や、突発性肺線維症(IPF)、気管支喘息等の発症、増悪因子になっている。血管内皮への接着、内皮間遊走や組織で遊走する際には、白血球は大きく動的な変形を受ける。この時、細胞骨格は、細胞内の局所で動的に不均等に重合、脱重合され、それに従い、細胞質粘弾性も動的に不均等に変化するはずである。これまで、遊走中の白血球で、細胞内の局所粘弾性の動的測定は、方法上の制約から成されていなかった。今回の研究で、我々は、光トラップを用いて遊走中の好中球における細胞内の局所粘弾性の動的測定に成功した。 白血球の細胞内顆粒を光トラップで強制振動させることにより、光トラップ力、光トラップと顆粒の振幅、顆粒の中心と光トラップの中心との位相差から、細胞質の弾性係数と粘性を分離測定した。遊走中の好中球の細胞質粘弾性は、細胞内の部位によって異なり、仮足進展部では、体部、尾部に較べて粘性は1/6、弾性は1/20という結果を得た。これは、仮足進展部の細胞質はより液体に近いことを示しており、細胞内圧により細胞質が押し出されて仮足が形成されることを示唆する。
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