我々は放射線療法の副作用として生じる肺線維症の発症機序を解明する目的でWistar ratを用い放射線(15rad)を一回照射することで放射性肺線維症のモデルを作製した。組織学的には放射線照射後2-8週後には炎症細胞浸潤及び線維芽細胞増殖を主体とする間質性肺炎、その後膠原腺維の増生による肺線維症の像がみられた。我々は、線維芽細胞増殖因子及び遊走因子として知られている血小板由来増殖因子(PDGF)に注目し、放射線照射ラットから得られた線維芽細胞上のPDGF受容体の発現が対象群のそれと比較して数、親和性ともに増強していることを明らかにした。これらの結果はPDGF受容体発現のregulationが本症の発症に関与する可能性を示す。また、トロンビンは血液凝固系プロテアーゼの一つであるが、線維芽細胞増殖活性をもつことが知られている。我々は放射性肺線維症におけるトロンビンの関与を検討した。気管支肺胞洗浄液中のトロンビン活性は放射線照射4週後に高値であり、その活性は洗浄液中の線維芽細胞増殖活性と相関が見られた。さらに、洗浄液中のトロンビン活性をトロンビン阻害剤で阻害することで洗浄液中の線維芽細胞増殖活性の低下がみられた。これらの結果は、トロンビンが放射性肺線維症における線維芽細胞の増殖と線維化に関与する可能性を示す。今後、PDGF及びトロンビンの放射性肺線維症の病態への関与を明らかにするとともにPDGF抗体及びトロンビン阻害剤が本症の治療剤として有用かどうかについて検討する予定である。
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