研究概要 |
MUC1は多くの固形癌細胞に発現されているが,細胞膜上に200〜500nmもの長さで直立する膜貫通型高分子量の糖蛋白質で,細胞接着を物理空間的に阻害する作用を有していることが判明している.私達は,抗KL-6/MUC1マウスモノクローナル抗体がin vitroおよびin vivoの実験系において細胞接着を誘導し,腫瘍増殖を抑制する活性を示すことを明らかにしてきた.これらの知見は,KL-6/MUC1抗体の補充療法が有効な癌の免疫療法である可能性を示している. 本年度は,MUC1を認識するマウスモノクローナル抗体を多数作製することが目的であった.まず,免疫原として用いるMUC1の精製を行った.サンプルは肺癌患者由来の腹水と,YMB-S癌細胞株の培養上清の両者を用いた.精製には,まず,抗KL-6/MUC1モノクローナル抗体を結合したセファロースビーズを用いた抗体アフィニティーカラム法を行った. 次いで,FPLCを用いたゲルフィルトレーションを行った.その結果,免疫原およびスクリーニングに用いるために十分量の精製MUC1を得た.その後,現在までに,MUC1に反応する多数のモノクローナル抗体を作製した.現在は,来年度に実施する予定であった細胞学的に抗腫瘍活性の高いモノクローナル抗体をスクリーニング中である.問題点としては,本研究の発端となったマウス抗KL-6MUC1モノクローナル抗体は,浮遊型乳癌細胞に対して非常に強い細胞接着を誘導するが,当初の予想通り,これに匹敵する力価を有し,しかもMUC1分子上の異なる抗原決定基を認識するIgG型のモノクローナル抗体の作製には難渋しているのが現実であり,今後も新しいモノクローナル抗体の作製を継続しなければならない.
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