研究概要 |
多くの固形癌細胞に発現されているMUC1は,細胞接着分子による細胞間相互作用を物理空間的に阻害することにより細胞接着を抑制する作用を有していることが判明している。私達は,抗KL-6/MUC1マウスモノクローナル抗体が細胞接着を誘導するcell adhesion inducing monoclonal antibody(CAIMAN)であり,腫瘍増殖を抑制する活性を示すことを明らかにしてきた。これらの知見は,CAIMANの補充療法が有効な癌の免疫療法である可能性を示している。 本年度は,昨年度に引き続き,MUC1を認識する多種のモノクローナル抗体を作製することが目的であった。本研究の発端となったマウス抗KL-6/MUC1モノクローナル抗体ほど強力な力価を有し,しかもMUC1分子上の異なる抗原決定基を認識するlgG型のモノクローナル抗体の作製には難渋し,現在もその作製を継続している。現在,CAIMANであるlgG型の抗体4種とlgM型4種の抗体を保有している。このうち,lgM型の抗体一種がマウス抗KL-6/MUC1抗体よりも高い活性を示した。ところが,lgM型抗体はlgG型に比べ精製が困難であるばかりでなく,ヒト型化も困難であることが予想されるため,今後もlgG型抗体の樹立を続ける方針である。 一方,E-cadherin陽性,MUC1陽性浮遊型癌細胞において,MUC1発現をアンチセンスオリゴヌクレオチドより抑制すると,細胞接着が回復することを見出した。この結果は,CAIMANの作用の少なくとも一部は,細胞接着分子に対するMUC1の物理的遮蔽作用をCAIMANが減弱させる可能性を示している。来年度は,CAIMANの抗腫瘍効果のメカニズムを明らかにするため,b-cateninやc-MYCなどの発現に対する影響も検討したい。
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