自律神経機能障害が呼吸調節に及ぼす影響については多くは動物で検討され、ヒトでは肺移植や頚動脈体切除例などで少数例検討されているのみである。また移植肺では吻合部以下のみの脱神経支配であり呼吸器系における多くの求心性神経末端(機械的 化学的受容体)が豊富に存在する上気道(喉頭 気管)の関与は除外されている。FAPは、肺内気道、肺と同時に頚動脈体や上気道の自律神経支配傷害も予想される(剖検例にて迷走神経へのアミロイド沈着を病理学的に確認している)ので肺内気道、肺の神経因子の関与と同時に頚動脈体や上気道の神経因子についても総合的に検討可能である。 研究代表者らは、自律神経機能が化学的呼吸調節に重要な役割をはたしているものと仮説をたて、重篤な自律神経症状を呈する家族性アミロイドポリニューロパシー(以下、FAP)患者を対象に、低酸素および高炭酸ガス吸入負荷に対する換気応答を検討した。 その結果、高炭酸ガスに対する応答が正常コントロールに比し有意に低下していること、また、低酸素に対する応答も正常コントロールに比し低下傾向にあること、更に、これらの患者では、肺機能が正常であるにもかかわらず、安静時の動脈血液中の炭酸ガス分圧が上昇していること、これらの異常は、自律神経機能異常の重症度に相関することを発見している。このことは実際の臨床で、中枢化学受容体のみならず末梢自律神経機能も化学的呼吸調節に重要な役割を果たしていることを示唆している。
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