【背景および目的】成人呼吸促迫症候群(ARDS)の病態に肺胞マクロファージから産生される大量の一酸化窒素(NO)が関与することが知られる。オステオポンチン(OPN)はマクロファージ等から分泌される糖蛋白であり誘導型NO合成酵素(iNOS)を特異的に阻害する事が報告されている。本研究ではARDSの病態における内因性OPNの機能的役割を明らかにすることを目的とした。【方法】1.lipopolysacharide(LPS)を経気道的に投与しARDSモデルマウスを作成し、肺におけるiNOSとOPNの蛋白およびmRNAの発現を検討した。2.in vitroでマクロファージ系細胞株(RAW264.7細胞)をLPSとIFNγで刺激し、iNOSの阻害剤であるS-isothiourea(S-Urea)やNOS阻害剤であるL-NMMAの存在下あるいは非存在下で経時的なiNOSとOPNのmRNAの発現を検討した。又、RAW264.7細胞をNO donorであるSpermine-NONOateで刺激し、OPNの発現についても検討した。【結果】ARDSマウスの肺胞マクロファージ、および肺組織においてiNOSとOPNの蛋白およびmRNAの強い共発現を認めたが、OPNのmRNA発現はiNOSに比べて緩徐であった。一方、in vitroでのRAW264.7細胞においてはLPSのINFγでの刺激後iNOSmRNAが12hで最大の発現を認めたのに対して、OPNmRNAの発現増強はiNOSと比較して緩徐であり24hで強い発現を認めた。またS-UreaやL-NMMAでiNOSを阻害する事により、OPNの発現も著明に抑制された。又、RAW264.7細胞をSpermine-NONOateで刺激するとOPNの発現誘導が認められた。【結論】iNOSあるいはNOを阻害するとOPNの発現は抑制され、また、OPNはLPSとINF-γで産生されたNOで直接発現誘導できた。これの現象はARDSにおいて肺胞マクロファージから産生される内因性OPNはiNOSに対して負の調節因子として生体内で機能している事を示唆する。
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