研究概要 |
HTLV-I関連脊髄症(HTLV-I associated myelopathyHAM)では抗体依存性細胞介在性細胞障害(Antibody-Dependent Cell-mediated Cytotoxicity,ADCC)が低下している。本研究では,HAMにおいて低下した抗TLV-1ADCC活性の増減に影響する因子の検討した。(1)サイトカインの効果:HAM患者及び健常成人の末梢血単核球(PBMC)をinterleukin-2(IL-2)、interferon-α(IFN-α)及びinterferon-γ(IFN-γ)の存在下あるいは非存在下に培養しその後このPBMCをEffectorとし、HTLV-I感染細胞株であるMT-2をTargetとして、検者の血清を用い標準的なADCCアッセイを施行した。IL-2では健常成人全例でADCC活性は上昇したが、HAMでは約半数例で低下した。IFN-α及びIFN-γでは健常成人では全例でADCC活性は上昇したが、HAMでは多くの症例で低下した。(2)ADCCエフェクター細胞及び抗体のcharacterization:HAM患者のADCC活性は抗CD16抗体添加によりほぼ完全に抑制された。またHAM患者の血清をprotein G処理するとADCC活性は全くみられなかった。(3)アンチセンス法によるHTLV-I taxタンパクの発現抑制では抗HTLV-I ADCC活性に著変はみられなかった。(4)HAM患者においてNK細胞とT細胞のマーカーを合わせ持つサブセット(CD16+CD3+)のADCC活性は全体の1/3〜1/4程度である。我々は、ヒトのNK-T細胞マーカーであるCD56の低下を確認し既に報告している。本研究では、NK-T細胞のHTLV-Iに対する免疫監視機能について検討した。(5)HAM患者の単核球を抗CD16抗体で処理して血清とともに抗HTLV-I ADCC活性を測定すると細胞障害性は全くみられなくなった。一方、抗CD56,CD57杭体では有意なADCC活性の抑制はみられなかった。(6)NK-T細胞はHTLV-I感染細胞に対する有意な細胞障害活性はみられなかった。(7)HAM患者のNK-T細胞にはHTLV-Iウイルスゲノムは検出されなかった。以上より、NK-T細胞はCD16分子を介したADCCにより初めてHTLV-I感染細胞に対して有意な細胞障害性を示す。またNK-T細胞サブセットの減少は、この細胞自体はHTLV-Iに感染していないことから、サイトカインなどの液性因子によるdownregulationに起因するのではないかと思われる。このADCCエフェクター細胞の活性を亢進させる因子の探求がヒトレトロウイルスに対する治療的に有効な免疫監視機構の構築のために必要である。
|