〔目的〕昨年度は非神経であるBHK細胞にポリグルタミン鎖の伸長したtruncated formのataxin-3を一過性に発現させ、凝集体形成と細胞死を来すような系を確立したが、本年はこの細胞死と細胞周期との関連を明らかにすることを目的として実験を行った。〔方法〕CAGリピートが77回に増大した異常MJD遺伝子に由来し、C末側にmycタグをつけ、N末側を削ったtruncated ataxin-3をCMVプロモーター下に発現するプラスミド、pMJD-Q77(dN286)を用い、リン酸カルシウム法にてBHK細胞に一過性に発現後、細胞を通常の10%fetal bovine serum(FBS)下ないしは0.5%FBS下にて培養し、その後の細胞死を比較検討した。また細胞周期をG1期に強制的に止める目的で、BHK細胞にpMJD-Q77(dN286)とともにcyclin-dependent kinase inhibitorであるp21^<cipl>をco-transfectionした際の細胞死を同様に検討した。さらに、truncated ataxin-3(Q77)の細胞毒性における細胞周期停止効果を神経系にても確認する目的でPC12細胞を用い、未分化PC12細胞およびNGF処理PC12細胞にそれぞれpMJD-Q77(dN286)をtransfectionした際の細胞死を検討した。なお組み替えタンパクの発現は抗myc抗体を用いた免疫組織化学法にて、細胞死は核をHoechist dyeにて染色した際の形態変化から検討した。〔結果〕BHK細胞ではtruncated ataxin-3(Q77)による細胞死は、低血清状態で培養し細胞周期をG0/G1に停止させることにより通常の17%から54%に増加した。またp21^<cipl>のco-transfectionによる細胞周期のG1への停止でも細胞死は44%と増加していた。さらにPC12細胞でも、未分化な細胞周期を回っている状態でのtruncated ataxin-3(Q77)による細胞死は15%であったが、NGF処理後に神経細胞様に分化し、細胞周期が停止した状態で48%まで増加していた。〔結論・考察〕以上より、ポリグルタミン鎖の伸長したataxin-3断片による細胞死は細胞周期が停止した場合により増強されることが明らかとなった。神経細胞の細胞周期はG0に停止しているので、この結果はポリグルタミン病でなぜ神経細胞がより細胞死を来しやすいかを考える基礎となりうる知見と考えられる。
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