研究概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病因は解明されていないが、AMPA/カイニン酸受容体チャネルが選択的な運動ニューロンの細胞死に関わるとする病因仮説が支持されている。AMPA受容体を介する細胞死ではCa流入が先行することが示されているので、本研究ではこの受容体にCa透過性の変化を引き起こす分子変化(GluR2サブユニットmRNA発現量の低下、GluR2 RNA編集率の低下)がALSで生じているかどうかを剖検脊髄を用いて調べた。ALS、正常対照、疾患対照の、剖検時凍結保存した脊髄の前角・後角・白質3部位および他の神経変性疾患脳の病理所見の強い部位につき、AMPA受容体各サブユニット(GluR1〜4)に対するRT-PCRを施行した。GluR2の転写後編集率はGluR2のPCR産物を制限酵素で消化した結果得られた断片の定量的分析により検討した。疾患対照とALSの脊髄前角でGluR2 mRNAの発現量、ALS脊髄前角で転写後編集率が、統計的に有意に低下していた。また、Alzheimer病・Pick病大脳皮質、Huntington病線条体、脊髄小脳変性症(MJD,DRPLA,多系統萎縮症)小脳ではGluR2 mRNA編集率はほぼ100%であったことより、GluR2のRNA編集率の低下はALS脊髄前角に部位・疾患特異的であるといえる。このことは、GluR2のRNA編集率低下が孤発性ALSの直接の病因になっているか、もしくはALSの病因が同時にGluR2 RNA編集率を低下させることでAMPA受容体のCa透過性を亢進させ神経細胞死を促進させていることを示唆している。GluR2 RNA編集率低下が運動ニューロンに生じているかどうかを確認するため、単一運動ニューロン組織を用いて検討している。
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