末梢神経ミエリン、とくに傍絞輪部ミエリン、はGuillain-Barre症候群(GBS)における自己免疫機序の標的部位であり、同部に局在する抗原はGBSの標的分子となる可能性がある。GBSではガングリオシドをはじめとする糖脂質がしばしば標的分子となることが知られている。われわれはガングリオシドGD1bがヒト末梢神経の一次感覚ニューロンと傍絞輪部ミエリンに局在することを既に報告していたが、今回の検討で抗GD1b IgG抗体陽性GBSでは電気生理学的には脱髄を主体とする変化がみられ、感覚障害を伴うことが多いことがわかった。これは抗GD1b IgG抗体がGD1b抗原の局在する傍絞輪部ミエリンや一次感覚ニューロンに結合して発症機序に関与することを示唆する所見である。同じくヒト末梢神経ミエリンに局在するガングリオシドLM1に対するIgG抗体陽性のGBSでは、軽症のものが多く、電気生理学的には脱髄を主体とする変化がみられた。以上からミエリン局在性ガングリオシドに対する抗体は、ミエリンに結合し、軸索障害ではなく脱髄をきたすことが示唆された。ウサギではGD1bは傍絞輪部ミエリンにはなく一次感覚ニューロンに局在する。われわれはウサギにGD1bを免疫して実験的感覚障害性失調性ニューロパチーの作成に成功したが、今回の研究で血中抗体の解析から、GM1には交差反応せずGD1bを特異的に認識するIgG抗体が発症因子として重要であることを明らかにした。また一部の急性期GBS血中IgG抗体はウサギ末梢神経ミエリンを特異的に染色することがわかった、さらにウサギ末梢神経を抗原として得られたモノクローナル抗体のひとつはウサギ末梢神経シュワン細胞を特異的に染色した。これらの抗原分子を明らかにし、それを用いて脱髄性GBSの動物モデルを作成することにより、GBSの病態が解明され治療法の開発につながることが期待される。
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