Machado-Joseph病(MJD)は進行性の神経変性疾患で、小脳性運動失調および種々の随伴症状を呈する。本症は遺伝性脊髄小脳失調症のうち最も頻度の多い疾患で、常染色体性優性遺伝形式をとる。原因遺伝子MJDは14q32.1に位置し、翻訳領域内のCAGリピートの異常伸長によって発症する。MJD遺伝子の生理的機能、ゲノム構造、発現については十分に明らかにされていなかった。大規模シークエンシングなどにより、MJD遺伝子のゲノム構造、プロモーター領域、発現を明らかにすることを目的として本研究を行なった。27箇のcDNAクローン、13箇のコスミッドと8箇のBACクローンを得た。FISH法によりMJD遺伝子を含む約300kbのゲノム・コンティグを作成した。コスミッドのマッピングから14q21-q22に偽遺伝子または同族遺伝子の存在が推測された。コンティグのうち175kbの全塩基配列を決定した。MJD遺伝子は11箇のエクソンからなる約48.2kbの遺伝子で、3'端の2箇のエクソンは選択的スプライシングにより使い分けられている。また複数のポリA付加部位が存在し、少なくとも約1.4、1.9、2.0、4.4、7.0kbの転写産物が予測された。ノーザンブロットにて発現は遍在性であり、これらにほぼ対応する転写産物が確認された。独立した複数のcDNAクローン及びCAPクローンより転写開始点は翻訳開始点より58塩基上流と推定された。プロモーター領域にTATAボックスCCAATは存在しない。4箇所のGCボックス、Sp1、USF、SRY結合配列が認められる。翻訳領域内にアミノ酸置換を伴う一塩基置換多型(SNP)を2箇所、伴わないSNPを1箇所同定した。これらの多型について日本人一般集団及びMJD患者について検討したところ2種のハプロタイプが同定され、CAGリピート長並びに罹患染色体各々と間に強い連鎖不平衡が認められた。
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