遺伝性進行性ジストニー(HDP)は年齢依存性の症度変化、著明な日内変動を呈し、常染色体優性遺伝病であるにもかかわらず浸透率は低い。本病はGTP cyclohydrolase I (GCH)遺伝子以上に起因した疾患で、この遺伝子異常による酵素活性の30%を下回る減少の結果、黒質線条体-ドパミン-ニューロンの終末部のチロシン水酸化酵素の選択的減少をきたす.これは他の優性神経遺伝病の病理が一般に変性であり、たとえば酵素異常をともなう筋萎縮性側索硬化症が進行性で予後不良であるという事実とは対照的である.そこで、HPDの病態の分子機序の解明は、多くの酵素異常症の発症機構、および治療への展望が開くものと考えている.ここでは、まず遺伝子異常をもつ未発症例では、遺伝子の転写が正常のそれに比して相対的に低下していることを報告した.さらに浸透度の機序を細胞発現系において検討するため、野生型および種々の変異をもつGCHcDNAを合成して、単独あるいは野生型と変異型を同時にCOS-7細胞に発現させた.HPD患者から変異GCHの単独発現では酵素活性はなく、野生型との共発現ではGCH活性は変異GCHmRNAの発現量が増加するにしたがい低下した.変異GCHcDNAの種類によって低下の程度は異なったが、いづれの変異型も野生型と反応して活性を低下させるドミナントネガティブ効果を示した.
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