研究概要 |
パーキンソン病(PD)は進行とともに線条体内のdopamine(DA)終末の変性が進行し,それに伴って線条体内に二次的な機能変化が生じると考えられている.昨年来の剖検脳のチロシン水酸化酵素(TH)活性をDAニューロン終末の指標とした検討に加えて,今年度はPD剖検脳の黒質(SN),尾状核(CN),被殻(PUT),淡蒼球外節(Pde),淡蒼球内節(Pdi),視床下核(STN)のGABA,Glutamate(Glu),dynorphin(Dyn)の測定を行ない,それら測定値とカルテに記載された患者の生前症状のうちdyskinesia,wearing-off現象との関連について調査した.これまでに検討し得た症例数は非神経疾患対照8例,病理学的に確定されたPD5例である.PDのうち1例が高度のwearing-off現象,dyskinesia発現例であった.各神経核のGABA測定結果ではPDと対照の間に統計上の有意差がみられる部位はなかったが,Pdeで対照の平均値±SD(3.80±0.96μmole/g tissue)の-2SDより低い値(0.69)を示すPD例が1例あり,dyskinesiaの高度な症例であった.Gluの測定結果ではPdeにおいて対照に比較してPDのPUTの平均値が有意に低下を示した(対照14.90±1.68,PD9.80±1.35μmole/g tissue)が,dyskinesia,wearing-off現象との関連は示唆されなかった.Dynの測定値は各神経核において対照とPDとの間に差はなく症状との関連も不明であった.限られた症例数の検討ではdyskinesiaの発現に関連した大脳基底核神経回路網のアミノ酸,Dynの特定の変化を明らかにし得なかったが,被殻の中間部から尾側にかけてのTH活性の高度な低下(DAニューロン終末の変性)がdyskinesia発現の重要な要因であることが示唆された.
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