研究概要 |
正常の脳では,オリゴデンドロサイト・アストロサイトはαBクリスタリン抗体(αB-,Ab)で染色されることはあるが,神経細胞は染色されない.今回,我々は,様々な神経疾患例の神経細胞異常と上衣細胞封入体についてαB-Abを用いた免疫組織化学染色にて検索した. 1. 神経細胞異常についての対象は,29種類の神経疾患72例と非神経疾患4例の76剖検例である.染色の結果は,ballooned neuron(BN)(ピック病・corticobasal degeneration[CBD]・我々の報告した新しい型の家族性パーキンソン病[Mizutani et al.,1998]),皮質型レビー小体,上述の家族性パーキンソン病例にみられた神経細胞内嗜銀性封入体はそれぞれαB-Ab陽性を示し,仮性肥大を呈した下オリーブ核では3例中2例でときに陽性を示す神経細胞が認められた.稀にαB-Ab陽性神経細胞がみられた部位は,種々の疾患の脊髄前角・脊髄後角,多系統萎縮症(MSA)・CBDの橋核,MSAの動眼神経核であり,疾患・病変分布による一定した染色性はみられなかった.ピック小体、アルツハイマー神経原線維変化,脳幹レビー小体,中心染色質溶解を呈する神経細胞は原則として染色されなかった.以上の結果より,αB-Abで陽性に染色される神経細胞異常はかなり選択的であり,BN・皮質型レビー小体の検出,BNと中心染色質溶解との鑑別,ピック小体とBNとの鑑別に有用であると考えられた. 2. 延髄下部〜脊髄の中心管上衣細胞にみられたユビキチン陽性封入体はこれまで詳細に検索されたことのないものであるが,16種類の神経疾患51例と27例のコントロールを対象に検索した結果,1)この封入体は疾患特異性に乏しい,2)延髄下部〜脊髄の中心管に主にみられ,側脳室・第3脳室・第4脳室には稀である,3)αB-Ab陰性である,ことが判明した.この封入体の意義は不明であるが,上衣細胞の機能が活発ではない中心管に多いことから,上衣細胞に生じた何らかの変性によるものではないかと推測した.
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