これまでの研究で選択的ドーパミン神経毒であるMPTPやMPP^+、あるいは6-OHDAをそれぞれマウス黒質線条体培養細胞、ラットに投与してドーパミンニューロンの変性過程を調べ、(i)障害を受けたドーパミンニューロンに転写因子の1つであるc-Junが長期発現すること、(ii)c-junアンチセンスオリゴヌクレオチドによってドーパミンニューロンの変性脱落が抑制されることから、c-Junの発現を押さえることが細胞保護につながることを示唆する結果を得ている。(iii)また、この細胞死はIn situエンドラペリング、蛋白合成阻害剤やカスパーゼ阻害剤投与の結果から、その多くはアポトーシスとも異なると考えている。(iv)さらに培養細胞の長期観察から、残存ドーパミンニューロンの終末が強い再生能力があることを見出している。 DNAマイクロアレイの結果は、数回試みたが、一定の傾向を見出すことはまだできていない。今後の継続課題と考えている。 本年度はイムノフィリンリガンドの1つであるFK506を黒質線条体培養細胞に投与したところ、低濃度でMPP^+によるDAニューロンの脱落を強く抑制し、ラットでも線条体に6-OHDAを投与することで生ずる慢性のパーキンソニズムに対して、同物質が黒質のDAニューロン脱落を抑制することがわかった。黒質ドーパミンニューロンのc-Junの発現も同物質の投与で抑制された。同物質は免疫抑制剤としてすでに使用されており、その細胞保護作用の機構の詳細は不明だが、現在他の転写因子の動態も解析中である。 またパーキンソン病の症状の1つに振戦があるが、動物に実験的振戦のモデルとして知られているハルマリンを投与して、脳のどの細胞が活性化しているのかを調べる目的で、c-Fosによる組織化学をおこない、この物質が下オリーブ核を最も強く、興奮させていることを見出した。
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