研究概要 |
グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)は,運動ニューロンに対して強力な神経栄養活性を有することから,運動神経損傷や運動ニューロン疾患に対する治療効果が期待されている.本研究では,GDNFの遺伝子導入によるこれら病態の治療の可能性を追究する目的で,GDNF組換えアデノウイルスを作成し,成熟ラットの運動ニューロン損傷モデルに対する治療効果について検討した.ヒト脳・培養アストロサイトよりクローニングしたGDNF cDNAを発現ユニットとして,アデノウイルス・ゲノムからE1A,E1B,E3遺伝子を欠損したウイルスDNAをもつ発現コスミドカセットpAxCAwtに組込んだ.このコスミドカセットDNAと親ウイルスDNAを293細胞にco-transfectし,得られたウイルス液を293細胞で継代し精製ウイルスAxCAhGDNFを得た.運動ニューロン損傷モデルとして,成熟Fisher344雄ラットの右第7頚髄神経節を前・後根を含め引き抜き除去したのち,局所の椎間孔にAxCAhGDNFあるいはPBSを浸したgelfoamを留置した.2-8週後,灌流固定し第7頚髄の凍結連続切片を作成,Nissl染色ののち前角運動ニューロンの数を算定した.PBS投与群では,引き抜き損傷後2-8週で障害側前角運動ニューロンの明瞭な脱落を認めたが,AxCAhGDNF投与群では神経細胞脱落が有意に抑制された.また,AxCAhGDNFの投与により,傷害側前角運動ニューロンにおけるcholine acetyltransferase免疫反応性の低下が抑制された.本研究により,運動神経損傷や運動ニューロン疾患に対するGDNF組換えアデノウイルスを用いた遺伝子治療の有用性が示唆された.
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