研究概要 |
成体ラット顔面神経核運動ニューロン死に対するグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)組換えアデノウイルスベクターの治療効果について検討した.12週齢Fisher344雄ラットの右顔面神経を引き抜き除去したのち,傷害側の茎乳突孔にヒトGDNF組換えアデノウイルス(AxCAhGDNF),β-galactosidase(gal)組換えアデノウイルス(AxCALacZ)またはPBSを注入した.AxCALacZ投与群では,傷害側の顔面神経核運動ニューロンがβ-galで明瞭にラベルされ,組換えウイルスによって同ニューロンに外来遺伝子を導入し得ることが示された。AxCAhGDNF投与群では同ニューロンがGDNF免疫染色で強陽性となり,RT-PCRで傷害側脳幹組織にヒトGDNF mRNAの発現を認めた.顔面神経核を含む脳幹組織では常にGDNF受容体(GFRα1,Ret)mRNAが検出され,組換えウイルス接種が顔面神経核運動ニューロンでの外来性ヒトGDNFの産生を誘導し,autocrineあるいはparacrineな形で同ニューロンに対する神経栄養効果が発現されると考えられた.そこで,引き抜き損傷2-4週後,顔面神経核の運動ニューロン数を算定したところ,PBS投与群(4週後対照の28.5±3.9%),AxCALacZ投与群(32.4±4.3%)では障害側顔面神経核運動ニューロンの脱落を認めたが,AxCAhGDNF投与群(59.4±2.8%)では脱落が顕著に抑制された.また,AxCAhGDNF投与により傷害側運動ニューロンにおけるコリンアセチル転移酵素免疫反応性が改善,一酸化窒素合成酵素活性が抑制された.本研究により,成人における運動神経損傷や運動ニューロン疾患に対するGDNF組換えアデノウイルスを用いた遺伝子治療の有効性が示唆された.
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