研究概要 |
アルツハイマー病患者剖検脳において,しばしば,細胞内にAβ顆粒を含むグリア細胞(ミクログリアおよびアストロサイト)が観察される.このグリア細胞内顆粒に含まれるAβは,アミノ(N)末端側のシーケンスを認識する抗体に陰性であり,Aβがグリア細胞に取り込まれ,さらに限定的に処理されることが推定される.そこで,新生仔ラット脳から一次培養ミクログリアを分離し,培養液中に合成ヒトAβを添加しておいて,経時的に細胞を取り出し固定して,二重免疫組織化学染色を用いて細胞内Aβの変化を解析した.培養液中にAβを添加することで,1時間以内にミクログリア細胞内にAβ陽性顆粒が形成されたが,その際に必要な最小濃度はAβ40とAβ42で異なり,Aβ42が0.5〜1μg/mlであるのに対して,Aβ40は20μg/ml以上を必要とした.ミクログリア内Aβ顆粒は,培養液からAβを除いた後も細胞内に残存したが,AβN末端側シーケンスの免疫活性は失われ,アルツハイマー病患者剖検脳のグリア細胞内Aβ顆粒と同様の染色性を示した.次に,ラット脳線条体に,細いガラス針にて2pgllplのヒトAβ40あるいはAP42を注入の後,経時的に脳を取り出し,組織切片を作製して免疫染色を行った.注入後4時間でAβがミクログリア内に顆粒状に蓄積しているのが認められたが,それはAβ42の場合に,より著明であった.細胞内・外のAβは徐々に減少したが,9日後でもまだ観察された.このラット脳ミクログリア内のAβ顆粒も,やはりN末端側のシーケンスを認識する抗体に陰性を示した.これらの実験結果は,ミクログリアがAβを取り込み分解・処理することを示している.ヒト剖検脳標本におけるAβ顆粒陽性グリア細胞の出現は,その部位の細胞外AP濃度が高いか,あるいは逆に,グリア細胞の細胞内Aβ処理能が低下していることを示している可能性がある.
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