SMA原因遺伝子産物、SMNはRNAスプライシングに関与していると考えられる。そこで、神経特異的RNAスプライシングと病態の関わりを解明する端緒として、神経特異的なスプライシング因子遺伝子を検索し、NSSRlおよび2遺伝子を単離した。NSSRlおよび2は共にSRタンパク質という既知のスプライシング因子と高い相同性を示した。ノーザンプロットの結果、これら遺伝子は脳と皐丸に多く発現しているが他の臓器にはほとんど発現していなかった。また神経やグリアへの分化が可能なP19細胞の系で調べたところNSSR2には恒常的な発現が見られたがNSSRlは神経細胞でのみ発現している事が示された。特異的な抗体を得て行ったウエスタンプロットの結果もノーザンプロットの結果を支持しており、神経でのみNSSRlの分子量に相当するバンドが見られた。また、GFPとの融合タンパク質を作製して細胞内局在を調べたところ、SMNと同様に核内にスペックル状に存在していた。以上の結果はNSSRlが神経特異的なSRタンパク質であることを示唆していた。 実際、HeLa細胞の核エクストラクトを用いてβ-トロポミオシン遺伝子のRNAスプライシングをin vitroで調べたところ、リコンビナントNSSRlおよび2は共にスブライシング活性を上昇させることがわかった。また、非神経細胞であるNIH3T3細胞でみられる強制発現させたAMPA型GluR2のゲノム遺伝子断片のスプライシング異常が、NSSRlを共発現によって抑えられることも示された。さらにNSSRlおよび2の影響は互いに抑制的であることも示された。以上の様に、NSSRlは神経特異的なSRタンパク質としては世界で初めて同定された遺伝子であり、お互いの活性を抑制するSRタンパク質が同一のゲノム遺伝子の産物であるという結果もこれまでに例を見ないものである。これらの結果は神経の選択的スプライシングがどの様にして制御されているかを明らかにする上で最初の第一歩となる成果であり、さらにSMNの変異がどの様な機序で神経細胞死をもたらすのかを解明する端緒となる。
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