脊髄性筋萎縮症(SMA)の原因遺伝子産物SMNがその結合蛋白質であるSIP1(32kDa)と共にRNAスプライシングの必須要素であるsnRNP蛋白質の構成因子であり、そのバイオジェネシスで重要な働きをしていることが示された。一方、孤発例の筋萎縮性側索硬化症(ALS)でグルタミン酸トランスポーター遺伝子のスプライシング異常が頻発することが報告され、同疾患の病因にスプライシング因子の異常が関わっている可能性が示唆されている。従って、いずれも神経原性の筋萎縮を主徴とするこれら疾患の病因とスプライシング機構とは密接に関わっていると考えられる。我々は、SIP1遺伝子の機能を調べる目的でヒト胎児脊髄cDNAを解析し、全長のSIPlα遺伝子の他にSIP1-β、γ、δの3種のクローンを得た。SIP1βでは45塩基、γではC末端近傍の59塩基が欠失しており、δではN末端付近の80塩基が欠失してframe-shiftしていた。各組織での発現を解析した結果、いずれの組織でもSIP1-α遺伝子が主に発現していたが、その他の分子種の発現も認められ、これら分子種はいずれもスプライシング異常によるものではなく、生理的な選択的スプライシングによる産物であると考えられた。 次にSMAおよびALS筋におけるこれらSIP1分子種の発現を調べたところ、いずれの疾患筋でもSIP1-αの発現が減少し(17%および19%)、一方SIP1-βの発現が著名に増加していた(34%および32%)。この発現変化はDuchenne型筋ジストロフィーではみられず、神経原性筋萎縮症に特異的であると考えられた。
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