SMA原因遺伝子産物、SMNはスプライシングに関与していると考えられる。そこで、スプライシングと病態の関わりを解明する端緒として、神経特異的スプライシング因子遺伝子を検索し、NSSR1および2遺伝子を単離した。NSSR1と2は共にSMNと同様に核内にスペックル状に存在し、またin vitroおよびin vivoでスプライシング活性を有することから新規のスプライシング因子であると推定された。これら遺伝子は脳と睾丸に多く発現しているが他の臓器にはほとんど発現がみられず、またin situ発現解析の結果NSSR1、2のいずれも神経系、特に視神経に多く発現していることが示された。この結果はNSSR1および2の生理的機能が視神経でのスプライシングの制御機構に関与していることを示唆していた。 一方、SMNの結合蛋白質であるSIP1はsnRNP蛋白質の構成因子であり、そのバイオジェネシスで重要な働きをしていることが示されていた。また、ALSでグルタミン酸トランスポーター遺伝子のスプライシング異常が頻発することが報告され、同疾患の病因にスプライシング因子の異常が関わっている可能性が示唆されていた。我々は、SIP1遺伝子の機能を調べる目的でヒト胎児脊髄cDNAを解析し、全長の他にSIP1-β、γ、δの3種のクローンを得た。SIP1βでは45塩基、γではC末端近傍の59塩基が欠失しており、δではN末端付近の80塩基が欠失してframe-shiftしていた。SMAおよびALS筋におけるこれらSIP1分子種の発現を調べたところ、いずれの疾患筋でもSIP1-αの発現が減少し(17%および19%)、一方SIP1-βの発現が著明に増加していた(34%および32%)。この発現変化はDuchenne型筋ジストロフィーではみられず、神経原性筋萎縮症に特異的であると考えられた。
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